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最高裁判所第一小法廷 平成7年(オ)1203号 判決

上告人

X

右訴訟代理人弁護士

勝部征夫

髙橋司

桑森章

同訴訟復代理人弁護士

木村哲彦

被上告人

Y1

被上告人

Y2

被上告人

Y4

被上告人

Y3

被上告人

Y5

右五名訴訟代理人弁護士

正木孝明

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

第一審判決を次のとおり変更する。

1  被上告人Y1の平成六年一〇月二〇日以降の賃料相当額の金員支払請求に係る訴えを却下する。

2  上告人は、被上告人Y1に対し、平成四年三月三日から同六年一〇月一九日まで、一箇月二万三〇〇〇円の割合による金員を支払え。

3  被上告人Y1のその余の請求を棄却する。

4  上告人に対し、被上告人Y3は第一審判決別紙物件目録(一)及び(二)記載の土地の一〇八分の一四の持分について、同Y4及びY5は同土地の各一〇八分の八の持分について、同Y1及び同Y2は同土地の各一〇八分の三の持分について、昭和四五年五月一六日時効取得を原因とする持分一部移転登記手続をせよ。

5  上告人に対し、被上告人Y3、同Y4及び同Y5は第一審判決別紙物件目録(三)記載の建物の各三六分の二の持分について、同Y1及び同Y2は同建物の各三六分の一の持分について、昭和四五年五月一六日時効取得を原因とする持分一部移転登記手続きをせよ。

6  上告人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟の総費用はこれを二分し、その一を上告人の、その余を被上告人らの負担とする。

理由

一  本件は、被上告人Y1が上告人に対し、第一審判決別紙物件目録(三)記載の建物(以下「本件建物」という。)の持分権に基づき、その明渡し及び賃料相当額の金員の支払を求める第一事件と、上告人が被上告人らに対し、本件建物及び同物件目録(一)及び(二)記載の土地(以下「本件土地」という。また、本件建物と併せて「本件土地建物」という。)について時効取得を原因とする持分全部移転登記手続を求める第二事件が併合された訴訟である。

原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  韓国籍を有するA(後述のように後に日本に帰化した。)は、韓国籍を有する妻Bとの間に長男被上告人Y3(昭和一五年一月一日生まれ)、長女被上告人Y4(昭和一六年一二月二八日生まれ)及び二女被上告人Y5(昭和一八年三月一四日生まれ)をもうけた。同被上告人らはいずれも韓国籍を有している。

Aは、Dとも男女関係があり、同人との間に、非嫡出子として被上告人Y1(昭和二六年三月二〇日生まれ)及び同Y2(昭和二八年八月三〇日生まれ)がある。同被上告人らはいずれも日本国籍を有している。

2  Aは、昭和三六年三月一〇日にBと離婚し、同年九月、韓国に在住し韓国籍を有するCと婚姻した。

3  Aは、昭和三八年二月二七日に日本に帰化し、氏名をAとする日本国籍が編製されたが、その際同戸籍にCとの婚姻の事実が記載されなかった。

4  Aは、昭和三八年五月二日に上告人と婚姻した。

上告人は、右婚姻後、A、被上告人Y1及び同Y2と同居していた。

5  Aは、昭和四五年五月一六日に死亡した。

本件土地建物は、Aの相続財産である。上告人は、Aの死亡後、単独で本件土地建物を占有管理している。

6  昭和四六年一月二三日に被上告人Y1、同Y4、上告人及びその親族らが集まり、Aの相続財産の処理についての話合いをしたが、何らの合意も成立しなかった。

上告人は、同日から数箇月を経過しないうちに、遺産分割交渉を依頼した弁護士を通じ、Aと上告人の婚姻が重婚であるとの事実を知るに至った。

7  Cは、昭和五二年九月四日に死亡した。

8  被上告人Y1は、平成二年、上告人に対し、Aと上告人の婚姻は重婚であるとの理由で婚姻取消しの訴えを提起し、平成四年三月三日に婚姻を取り消す旨の判決が確定した。

9  上告人は、本件建物(店舗兼共同住宅)を屋内園子外一四名に賃貸し、賃料として一箇月計四一万四〇〇〇円を収受している。

10  上告人は、本訴において、本件土地建物(又はその持分)について、二〇年間占有したことを理由とする取得時効及び被上告人Y1の相続回復請求権の消滅時効を援用した。

二  原審は、次のように判断して、第一事件請求のうち本件建物明渡し及び右明渡し済みまで賃料相当額の金員として月額四万五一一五円の支払を求める部分を認容してその余を棄却し、第二事件請求をすべて棄却すべきものとした。

1  Aの死亡により、被上告人Y1は非嫡出子として本件建物の一二分の一の持分を、Cは妻として三分の一の持分をそれぞれ相続した。

2  Cの死亡による相続人の範囲、順位、相続分については、平成元年法律第二七号による改正前の法例(以下「旧法例」という。)二五条により韓国法が準拠法となる。一九七七年改正前の韓国民法七七三条、七七四条、一〇〇〇条、一〇〇二条及び一〇〇九条により、Cの財産についての被上告人Y1の相続分は一三分の一である。したがって、同被上告人は、Aからの相続とCからの相続を合わせて、本件建物の四六八分の五一の持分を有することになるから、上告人に対し、本件建物の賃料相当額の金員として月額四万五一一五円(四一万四〇〇〇円の四六八分の五一)を請求することができる。

3  上告人は、昭和四六年一月二三日から数箇月を経過するまでの間に、自己が相続人の地位になく、本件土地建物につき所有権はもとより相続による持分もないことを知り、その後は、所有の意思をもって本件土地建物を占有したものではないから、本件土地建物の所有権又は持分を時効取得することはできない。

4  上告人は、自ら相続人でないことを知りながら相続人であると称し、又は自己に相続権があると信ぜられるべき合理的な事由があるわけではないにもかかわらず相続人であると称し、相続財産を占有管理することによりこれを侵害している者に該当するから、相続回復請求権の消滅時効が適用される余地はない。

三  上告代理人勝部征夫、同髙橋司、同桑森章の上告理由第二について

原審の適法に確定した前記事実関係の下においては、上告人は、被上告人Y1及びY2と同居し、自分以外にもAの相続人がいることを知っていたことが明らかであり、上告人がAの相続人として本件土地建物について単独で占有を開始したからといって、上告人が本件土地建物を単独で所有する意思を表示したものとはいえない。したがって、上告人に本件土地建物全体の所有権について取得時効が成立しないとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、原審の認定に沿わない事実に基づいて原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。

四  同上告理由第一について

上告人による本件土地建物の持分の時効取得を否定した原審の前記二3の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

民法一八六条一項の規定は、占有者は所有の意思で占有するものと推定しており、占有者の占有が自主占有に当たらないことを理由に取得時効の成立を争う者は右占有が所有の意思のない占有に当たることについての立証責任を負う(最高裁昭和五四年(オ)第一九号同年七月三一日第三小法廷判決・裁判集民事一二七号三一五頁)。そして、所有の意思は、占有者の内心の意思によってではなく、占有取得の原因である権原又は占有に関する事情により外形的客観的に定められるべきものである(最高裁昭和四五年(オ)第三一五号同年六月一八日第一小法廷判決・裁判集民集九九号三七五頁、最高裁昭和四五年(オ)第二六五号同四七年九月八日第二小法廷判決・民集二六巻七号一三四八頁、最高裁昭和五七年(オ)第五四八号同五八年三月二四日第一小法廷判決・民集三七巻二号一三一頁参照)。

これを本件について見ると、原審は、上告人がA死亡後単独で本件土地建物を占有している事実を確定しつつ、上告人が占有開始後に自己が所有者又は持分権者でないことを知ったという内心の意思の変化のみによって所有の意思の推定を覆しており、民法一八六条一項の所有の意思の推定が覆される場合について法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。

そして、前記確定事実によれば、上告人は、Aの相続人として、Aが死亡した日である昭和四五年五月一六日に本件土地建物の占有を開始し、その後二〇年間その占有を継続しているところ、自己がAの唯一の配偶者で三分の一の法定相続分を有するものとして占有を開始したと見るべきであるから、被上告人らが他に上告人の占有が所有の意思のないものであることを基礎付ける事情を何ら主張していない本件においては、本件土地建物の各三分の一の持分を時効により取得したものというべきである。そうすると、上告人は、本件建物の共有者としてこれを占有していることになるが、被上告人Y1は、本件建物の共有者である上告人に対して本件建物の明渡しを求めることができる理由を何ら主張していない。よって、原判決中、第一事件請求のうち本件建物の明渡請求を認容し、第二事件請求を全部棄却すべきものとした部分は、いずれも破棄を免れない。

五  同上告理由第四について

1  準拠法の選択について

(一) 渉外的な法律関係において、ある一つの法律問題(本問題)を解決するためにまず決めなければならない不可欠の前提問題があり、その前提問題が国際私法上本問題とは別個の法律関係を構成している場合、その前提問題は、本問題の準拠法によるのでも、本問題の準拠法が所属する国の国際私法が指定する準拠法によるのでもなく、法廷地である我が国の国際私法により定まる準拠法によって解決すべきである。

これを本件について見ると、Cの相続に関する準拠法は、旧法例二五条により被相続人であるCの本国法である韓国法である。韓国民法一〇〇〇条一項一号によれば、Cの直系卑属が相続人となるが、相続とは別個の法律関係である被上告人らがCの直系卑属であるかどうか、すなわちCと被上告人らの間に親子関係が成立しているかどうかについての準拠法は、我が国の国際私法により決定することになる。

(二) 親子関係の成立という法律関係のうち嫡出性取得の問題を一個の独立した法律関係として規定している旧法例一七条、一八条の構造上、親子関係の成立が問題にある場合には、まず嫡出親子関係の成立についての準拠法により嫡出親子関係が成立するかどうかを見た上、そこで嫡出親子関係が否定された場合には、右嫡出とされなかった子について嫡出以外の親子関係の成立の準拠法を別途見いだし、その準拠法を適用して親子関係の成立を判断すべきである。

旧法例一七条によれば、子が嫡出かどうかはその出生当時の母の夫の本国法によって定めるとされており、同条はその文言上出生という事実により嫡出性を取得する嫡出親子関係の成立についてその準拠法を定める規定であると解される。そうすると、出生以外の事由により嫡出性を取得する場合の嫡出親子関係の成立については、旧法例は準拠法決定のための規定を欠いていることになるが、同条を類推適用し、嫡出性を取得する原因となるべき事実が完成した当時の母の夫の本国法によって定めるのが相当である。

したがって、被上告人Y3、同Y4及び同Y5がAとCの婚姻によってA・C夫婦の嫡出子となるかどうかについては、右婚姻当時のCの夫Aの本国法である韓国法が準拠法となり、被上告人Y1及び同Y2がAによる同被上告人らの認知によってA、C夫婦の嫡出子となるかどうかについては、Aが同被上告人らを認知した当時(Aが同被上告人らを認知したのは、Aが日本に帰化した後の昭和三八年三月一四日であることが記録上明らかである。)のAの本国法である日本法が準拠法となるというべきである。

そうすると、被上告人Y3、同Y4及び同Y5は、一九九〇年法律第四一九九号による改正前の韓国民法七七三条によりCとの間にいわゆる継母子関係が生じ、その嫡出子たる実子と同様に扱われ(なお、韓国においては、同条に規定する法定母子関係が成立するためには、母と子が同一の家籍(戸籍)内にあることを要しないと解されている。)、同被上告人らはCの相続人となる(同改正法附則一二条一項)。他方、被上告人Y1及び同Y2は、日本民法によりCの嫡出子であるとは認められないことになる。

(三)  右のようにCの嫡出子であるとは認められない被上告人Y1及び同Y2について、更にCとの間に嫡出以外の親子関係が成立するかどうかを検討する。

旧法例一八条一項は、その文言上認知者と被認知者間の親子関係の成立についての準拠法を定めるための規定であると解すべきであるから、その他の事由による親子関係の成立については、旧法例は準拠法決定のための規定を欠いていることになる。その他の事由による親子関係の成立のうち、血縁関係がない者の間における出生以外の事由による親子関係の成立については、旧法例一八条一項、二二条の法意にかんがみ、親子関係を成立させる原因となるべき事実が完成した当時の親の本国法及び子の本国法の双方が親子関係の成立を肯定する場合にのみ、親子関係の成立を認めるのが相当である。

したがって、Aが被上告人Y1及びY2を認知することによってCと同被上告人らの間に親子関係が成立するかどうかについては、右認知当時のCの本国法である韓国法と同被上告人らの本国法である日本法の双方が親子関係の成立を肯定するかどうかを見るべきであり、日本法ではCと同被上告人らの間に親子関係が成立しないから、韓国法の内容を検討するまでもなく、Cと同被上告人らの間の親子関係は否定され、結局、同被上告人らは、Cの相続人にはならないというべきである。

(四)  右と異なり、Cと被上告人Y1間の親子関係の成立について、韓国法を準拠法としてこれを肯定した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は、右の趣旨をいうものとして理由がある。原判決中、第一事件請求のうち本件建物の賃料相当額の金員支払請求につき、被上告人Y1がCの相続人であることを前提に計算した額の支払を命じた部分は、破棄を免れない。

2  被上告人らの各相続分について

(一)  Cは、Aの相続財産につき、昭和五五年法律第五一号による改正前の民法九〇〇条の規定により三分の一の相続分をもって相続した。

Cの死亡による相続に関し、韓国法によれば、前記のようにCとの間に法定母子関係が存する被上告人Y3、同Y4及び同Y5が直系卑属として同順位で相続人となるが、同一家籍内にない女子の相続分は男子の四分の一となる(一九七七年法律第三〇五一号による改正前の韓国民法一〇〇九条一項、前記一九九〇年改正前の同条二項、右一九七七年改正法附則五項、右一九九〇年改正法附則一二条一項)。被上告人Y4及び同Y5がCと同一家籍内にない女子であったことは記録上明らかである。

そうすると、Aの相続財産に関する被上告人らの各取得分は、次のとおりとなる。

(二)  被上告人Y3について

被上告人Y3は、Cが相続した本件土地建物の各三分の一の持分につき、その六分の四を相続するから、Cから本件土地建物の各一八分の四の持分を相続した。同被上告人は、Aの死亡により、その嫡出子として本件土地建物の各一二分の二の持分を既に相続しているから、合計で各一八分の七の持分を取得したことになる。

(三)  被上告人Y4及び同Y5について

被上告人Y4及び同Y5は、Cが相続した本件土地建物の各三分の一の持分につき、Cと同一家籍内にない女子としてそれぞれその六分の一を相続するから、Cから本件土地建物の各一八分の一の持分を相続した。同被上告人らは、Aの死亡により、その嫡出子として本件土地建物の各一二分の二の持分を既に相続しているから、合計で各一八分の四の持分を取得したことになる。

(四)  被上告人Y1及び同Y2について

被上告人Y1及び同Y2は、Aの死亡により、その非嫡出子としてそれぞれ本件土地建物の各十二分の一の持分を取得した。

六  結論

以上説示したところによれば、本件の結論は、その余の上告理由について判断するまでもなく、次のようになる。

1  上告人は本件土地建物の各三分の一の持分を時効取得したというべきであり、被上告人Y1の第一事件請求のうち本件建物明渡請求は棄却すべきである。

2  被上告人Y1の第一事件請求のうち賃料相当額の金員支払請求は、上告人が本件建物の賃借人らから収受している賃料につき、同被上告人の本件建物の持分割合に相当する分について不当利得の返還を求めるものであると解される。しかしながら、共有者の一人が共有物を他に賃貸して得る収益につきその持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち事実審の口頭弁論終結時後に係る請求部分は、将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しないから(最高裁昭和五九年(オ)第一二九三号同六三年三月三一日第一小法廷判決・裁判集民事一五三号六二七頁参照)、同被上告人が上告人に対し原審口頭弁論終結日の翌日である平成六年一〇月二〇日以降の賃料相当額の金員支払を請求する部分に係る訴えは、却下を免れない。

同被上告人の原審口頭弁論終結日までの賃料相当額の金員支払請求部分については、同被上告人が相続した本件建物の持分である一二分の一から上告人が時効取得したその三分の一を控除し、一八分の一の持分に相当する限度で認容すべきである。すなわち、被上告人Y1の上告人に対する本件建物の賃料相当額の金員支払請求は、一箇月当たり四一万四〇〇〇円に一八分の一を乗じた二万三〇〇〇円の限度で認容すべきである。

3  記録によれば、本件土地は登記簿上Aの所有名義のままであり、本件建物には相続を原因としてE(Cの従兄弟)が三分の一、被上告人Y3、同Y5及び同Y4が各一二分の二、被上告人Y1及び同Y2が各一二分の一の各持分を有することとする所有権移転登記が経由されていることが明らかである。したがって、上告人の第二事件請求は、被上告人らに対し、本件土地については被上告人らの各法定相続分の各三分の一に相当する持分(被上告人Y3は五四分の七、同Y4及び同Y5は各五四分の四、同Y1及び同Y2は各三六分の一。これらの分母を共通にすると、同Y3は一〇八分の一四、同Y4及び同Y5は各一〇八分の八、同Y1及び同Y2は各一〇八分の三となる。)につき、本件建物については各登記された持分の各三分の一に相当する持分(被上告人Y3、同Y4及び同Y5は各三六分の二、同Y1及び同Y2は各三六分の一)につき、昭和四五年五月一六日時効取得を原因とする持分一部移転登記手続を命じる限度で認容すべきである。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大出峻郎 裁判官小野幹雄 裁判官遠藤光男 裁判官井嶋一友 裁判官藤井正雄)

上告代理人勝部征夫、同髙橋司、同桑森章の上告理由

第一 取得時効の成否についての法令適用の誤り(その一)

一 総論

1 上告人には、第一審判決別紙物件目録の一ないし三の不動産(本件不動産)について、昭和四六年一月一一日から二〇年間、少なくとも三分の一の持分を有する共有者としての自主占有が認められる(上告人は、上告人にはさらに単独所有者としての自主占有が認められると考えるが、この点は項を改めて述べる)。

2 原判決は、「控訴人(上告人)は、遅くとも昭和四六年一月二三日から数か月を経過するまでの間に、本件不動産につき所有権はもとより相続による共有持分もないことを知り、その後は、所有の意思をもって本件不動産を占有したものではないというべきである」として、これを否定している。右のような表現から、そして、占有取得の原因である権原が所有の意思に基づかないものであることを認めるに足りる事実が原判決によっても認定されていないことからすると、原判決は、占有開始当初の上告人の占有が共有者としての自主占有であったことは認めるものの、その後数か月のうちに共有者としての自主占有すらも失われたとしていると認められる。

3 しかし、上告人には、共有者としての自主占有まで覆されるような事情は認められない。原判決には、この点において判決に影響を及ぼす法令の違背があると考える。

二 原判決の法的構成

まず、原判決は、どのような法律構成によって上告人が所有の意思を失ったとしているのであろうか。明確でないように思われる。

ただ、上告人が重婚の事実を知ったという昭和四六年一月二三日から数か月ほど経過した時点よりも後についてのみ、「所有の意思をもって本件不動産を占有したものではない」とし、それ以前の所有の意思の推定は覆らないような表現をしていることからすると、所有の意思の喪失したことにより取得時効が自然中断した(民法第一六四条)としているものと受け取れる。取得時効が完成するには時効期間中所有の意思が継続していることが必要であり(梅謙次郎・民法要義之一総則編四〇八頁)、占有者が所有の意思を放棄するなど所有の意思がなくなる場合も民法第一六四条が定める取得時効の自然中断理由である「其ノ占有ヲ中止」に該当すると解されるのである(安達三季雄・注釈民法(5)二六〇頁、淺生重機・昭和五八年最高裁判所民事判例解説七七頁)。

では、所有の意思の喪失はどのような場合に認められるか。民法第一八六条第一項の所有の意思の推定は、占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示した事実、あるいは所有者であれば当然とるべき行動に出なかったなど、外見的客観的にみて他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったものと解される事情が認められる場合には覆るとされているが(最一判昭和五八年三月二四民集三七巻二号一三一頁)、このような事実を証明することが、つまりは民法第一六四条の自然中断の事実を立証することにほかならないことになるのであろう(淺生・前掲箇所)。

とすれば、上告人の所有の意思が失われ取得時効の自然中断事由が発生したか否かは、占有期間中の上告人に、真の所有者であれば通常はとらない態度を示した事実、あるいは所有者であれば当然とるべき行動に出なかったなど、外見的客観的にみて他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったものと解される事情が認められるか否かにかかることになる。

三 右のような事情が上告人に認められるか

1 まず、この点について、原判決は、「控訴人(上告人)は、遅くとも昭和四六年一月二三日から数か月を経過するまでの間に、本件不動産につき所有権はもとより相続による共有持分もないことを知り、その後は、所有の意思をもって本件不動産を占有したものではないというべきである」として、重婚の事実を知ったことにより以後は所有の意思が失われるかのような表現をしている。

しかし、所有の意思の有無は、あくまで外形的客観的に定められるものである。所有の意思を喪失したことにより取得時効の自然中断が生じたかどうかについても同様である。原判決が、重婚の事実を知ったことで上告人の所有の意思が失われるとしたのであれば、客観的に理解すべき所有の意思を占有者の内心のものとして理解したものであり、明らかに誤りと言わなければならない。真の所有者であれば通常はとらない態度を示した事実、あるいは所有者であれば当然とるべき行動に出なかったという事情の有無が検討されなければならない。

なお、重婚は婚姻の取消事由であって、取り消されるまでは一応は有効なのであるから、婚姻が現実に取り消される前に、単に取消原因を知ったのみで相続権がないことを知ったと言えるかについても、疑問なしとしない。

2 では、まず真の所有者(この場合、共有者)であれば通常はとらない態度を示したという事実があるか。

そのような事実として典型的にあげられるのは、売買契約に基づいて不動産の引渡を受けて占有を始めた占有者自らがその解除を主張し始める(浅生・前掲箇所)、土地の占有者が第三者からその土地を買い受ける(大判大正四年三月一〇日民録一一輯二五七号)、共同相続財産のうちの不動産の単独所有権の時効取得が問題になっている場合において占有者が相続人間で分割の話を持ち出してほしいと依頼したこと(東京高決昭和四二年四月一二日家裁月報一九巻一一号八三頁)などであろう。

そして、このような事実が上告人に認められないこと、多言を要しない。

3 次に、「所有者であれば当然とるべき行動に出なかった」という点である。ここでの問題である共有者としての自主占有について言えば、「共有者であれば当然とるべき行動に出なかった」と言えるか否かである。

(一) 上告人は、昭和四六年一月一一日以後、本件建物を管理して必要な補修などを行い、そこからの家賃を収受し、自己の名で固定資産税及び都市計画税を支払っていた。また、権利証も保管していた。これらは、いずれも「所有者であれば当然とるべき行動」である。

(二) 問題になるとすれば、遺産分割の交渉を求めなかったこと、すなわち登記を求めなかったことであろうか。原判決も、「(上告人が重婚の事実を知ったとされる時期)以後、被告(上告人)は、原告(被上告人Y1?)に対し、遺産分割等について何らの交渉を求めることはなく」としており、この点を問題にするようにも見受けられる。

しかし、このような交渉を求め、相続による移転登記の要求をしないことが「所有者であれば当然とるべき行動に出なかった」ことにあたるか、はなはだ疑問である。例えば、売買による所有権移転の場合と違い、相続の場合には、相続後も長期間、遺産分割協議も行われずに、被相続人の名義のまま不動産の所有名義が放置されていることが極めて多い。本件の場合でも、遺産分割を求めなかったのは、上告人だけではない。現に本件における真正な相続人である被上告人らは、重婚の事実を知っていたという被上告人Y1及び同Y2も、またおそらくそれを知らなかったという被上告人らも、昭和四六年一月二三日の「何らの合意も成立しなかった」(原判決)話し合い以後、遺産分割協議をまったく要求せず、全ての相続財産について、被相続人亡Aの名義のまま二〇年以上も、放置しているのである。

以上のような事情からすれば、上告人が遺産分割について何らの交渉も求めなかったということは、「所有者として当然とるべき行動に出なかった」ことにはあたらない。

4 以上のように、上告人には、共有者として「他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったと認められる事情」がない。したがって、取得時効の自然中断など、占有の意思の推定を覆す事情は認められない。

四 共有持分の時効取得についての補論

1 原判決は、共有持分権の取得時効について格別触れるところがなく、その可能性を肯定しているものと思われる。共有とは共有者が各一個の所有権を有しているものであり、ただ各所有権が一定の割合において制限し合ってその内容の総和が一個の所有権の内容と等しくなっている状態などと説かれること(我妻・前掲書三二〇頁)、各共有者には共有物の全部についてその持分に応じた使用が認められていること(民法第二四九条)などからすれば、不動産を共有者としての意思をもって占有した場合には、民法第一六二条あるいは第一六三条によって、共有持分権が時効取得されることが認められるべきである(東京地判昭和五七年五月一三日判タ四八二号一〇八頁)。

2 なお、原判決は、亡Aの死亡後、上告人は、「本件建物」(一審判決別紙物件目録三記載の建物)に、被上告人Y1及び同Y2とともに生活していた、としているが、これは明らかに誤りである。上告人は、本件建物ではなく、右目録七記載の、第一審判決の言う「東小橋の物件」(以下においても、東小橋の物件と言う)において、亡Aの生前は同人と、またその死後しばらくは被上告人Y1及び同Y2と暮らしていたのである。この点には争いはなく、各当事者の供述からもそれが認められる。

五 結語

以上のとおり、上告人は、本件不動産を共有者として自主占有をしたことにより、三分の一の共有持分を時効取得しており、本件不動産の共有者となっている。

したがって、上告人から被上告人らに対する移転登記手続請求は、共有持分についての時効取得を求める限度で認容されるべきである。また、被上告人Y1から上告人に対する本件建物明渡の請求は妨害排除請求であるところ、共有物を占有する共有者に対する他の共有者からの妨害排除請求は、各共有者とも共有物の全部について持分に応じた使用をすることができる以上(民法第二四九条)、認められないから(最一判昭和四一年五月一九日民集二〇巻五号九四七頁)、棄却すべきである。

原判決には、自主占有について前記のとおりの誤った解釈をした結果、これと異なった結論を出しているのであって、判決に影響を及ぼす法令の違背があるというべきである。

第二 取得時効の成否についての法令適用の誤り(その二)

一 総論

1 さらに上告人は、昭和四六年一月、被上告人らに対して本件不動産を自主占有する旨を表示したと言うべきであるから、亡Aの妻としての三分の一の相続持分を超える部分についても、自主占有が認められる。

2 原判決は、前記第一の点を排斥したと同様に、昭和四六年一月から数カ月を経過しないうちに上告人が自己に相続権がないことを知ったという理由をもって上告人の時効取得の主張を排斥しており、上告人の主張した自主占有への転換について触れるところがない。

また、第一審判決は、新権原(民法第一八五条)については遺産分割協議が成立していないことをもって、また所有の意思あることの表示(同前)については上告人からの本件不動産の取得を求めての交渉が成立しないまま中断していることをあげ、これらを否定している。

3 しかし、上告人には所有の意思の表示が認められる。これは、第一審のように、本件不動産を取得したいとの意向を示しての交渉の申し入れという事実のみに着目して判断されるべきものではなく、上告人の本件不動産の占有についての諸般の事情から判断されるべきものである。上告人は、その結果として、上告人には所有の意思の表示が認められると考える。

二 所有の意思の表示について

1 共同相続人のうちの一人が相続財産について単独所有者としての自主占有を取得する場合について論じた判例としては、最二判昭和四七年九月八日民集二六巻七号一三四八頁を無視することはできない。この判例は、「共同相続人の一人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人が何ら関心をもたず、もとより異議を述べた事実もなかったような場合には、前記相続人はその相続のときから自主占有を取得したものと解するのが相当である。」と述べており、この問題についてのリーディングケースとなっていることは事実である。

しかし、この判例は、右のようなケースにおいては自主占有の取得が認められるとしたものにすぎないのであって、これにあてはまらない場合がすべて他主占有であるという訳ではない。相続開始当時、右判例が言うような事情が認められない場合であっても、その後、民法第一八五条の要件を満たすなどによって自主占有へ転換する場合などがあることは当然である。

2 では、どのような場合に自主占有の表示があったと言えるのか。右昭和四七年最判はこの要件を打ち出しているようにも見える。

しかし、そこにあげられた事情が本当に自主占有たることの表示の要件と言えるかは、以下の二点において疑問がある。一点は右判決がいわゆる事例判決であり、民法第一八五条の意義の解釈をしたものではないからである。もう一点は、この判例が同条の自主占有の表示があったと認めた判例と断言できないからである。確かに自主占有の表示が認められる場合とする理解もあるが、むしろ、相続によって被相続人から承継した観念的な占有と現実的支配を伴う現実的占有という、相続の場合の占有の二面性のうちの現実的占有に着目し、事案の具体的事情のもとでは相続財産を占有する共同相続人が単独所有者としての自主占有を新たに取得したものと考えたものと理解されているようである(輪湖公寛・最高裁判所昭和四七年民事判例解説七〇二頁)。この判決が相続のときから自主占有を「取得した」と言い、「転換」「変更」といった語を使用していないこと、自主占有の表示は他主占有であることあるいは少なくともそのような係争があることを自覚してなされるものであり、その要件に単独所有であることの誤信を組み入れることは背理と思われることなどは、右の理解の裏付けになるであろう。

とすると、自主占有の表示についての要件は、右最判を参考にはしながらも、一応別個に検討されなければならないであろう。

3 共同相続人の一人が相続財産を単独占有をしていても自主占有とは認められないのは、自己の持分を超える部分は他の共同相続人のためにこれを管理していることが通常であり、権原の性質上自主占有とは言い難いからである。とすると、これに反する意思が表示されていると認められている場合には、自主占有たることの表示があったと認められることになるであろう。右昭和四七年最判は単独所有であることを誤信したことを要件としているが、自主占有たることの表示は、むしろ現在は地主占有であることを前提にしたうえでなされるのが通常であり、自主占有の表示の要件や要素にそぐわないこと、前述のとおりである。

自主占有の表示について論じた判例は多くないが、右昭和四七年最判の原審は、「共同相続人の一人が相続財産の使用収益を独断専行してその効果を他の共同相続人に帰せしめず、自己の名において公租公課を納付しながら、他の共同相続人に対してその償還を求めないような場合は、むしろ相続財産を単独相続したものとしてその自主占有を始めたもの、またはその外観上他の共同相続人に対し黙示的に自主占有の意思を表示したものと解するを妥当と考える」としている。

三 本件について

本件においては、上告人には、共同相続人である被上告人ら共同相続人全員に対し、所有の意思の黙示的な表示をしたと認められる。昭和四六年一月二三日に被上告人Y4宅に集まった者たちだけでなく、その場にはいなかった共同相続人らに対しても黙示的な表示が認められる。その事情として、①昭和四六年一月一一日、上告人は、それまで被上告人Y1らと暮らしていた東小橋の物件から退去して他に移り住むとともに本件不動産の占有を開始したが、この際、本件不動産の権利証などを全て持ち出していること、②以後、上告人は、それまでと違って本件建物から収受した家賃収入を独占し、被上告人らに渡していないこと、③他方、本件不動産の公租公課や本件建物の補修費用は全て自己で負担し、多額に上ることもあったと思われる補修費用などについても被上告人らには一切請求をしていないこと、④その一方で、上告人は、東小橋の物件など、他の相続財産については被上告人らに対して以後全く権利主張などせず、相続財産のうちの本件不動産についてのみ、これを遺産分割により取得する旨を主張したものと認められること、⑤同年一月二三日に被上告人Y4宅で行われた話し合いでは遺産分割について合意は成立はしなかったとされているが、上告人は、その席で、妹の口を通じて、本件不動産については自己が取得したいと主張していること、⑥その後、妹を通じて上告人が依頼した石川弁護士が、被上告人Y1に対し、上告人が本件不動産を取得したいと言っている旨を告げていること、⑦上告人と被上告人Y1らとの関係は、昭和四六年一月一一日に上告人が家を出てから断絶状態となり、上告人が右被上告人らのために本件不動産を管理するという関係は考えられなくなっていること、⑧その後、被上告人らが上告人の本件不動産の占有について異議を唱えた様子がうかがえないこと、をあげることができるであろう。

四 結語

以上からすれば、上告人は、昭和四六年一月一一日に、本件不動産について占有を取得し、それと同時に、共同相続人らに対して自主占有であることの表示をしたというべきであり、これによって上告人の本件不動産の占有は全体について自主占有となり、その後二〇年の経過によってこれを時効取得したと言うべきである。したがって、被上告人Y1の上告人に対する明渡請求は棄却されるべきであり、上告人の被上告人らに対する移転登記請求は認容されるべきところ、これに反する認定をした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背があるから、破棄されるべきである。

第三 相続回復請求権の消滅時効についての法令適用の誤り

一 総論

1 原判決は、上告人による相続回復請求権の消滅時効の主張に対して、上告人は自らの婚姻に取消事由があり相続人たる地位を喪失すべき立場にあることを知りながら本件不動産を占有管理することによりこれを侵害していたことを理由として、上告人が相続回復請求権の対象(表見相続人)にあたることを否定している。

2 しかし、本件不動産に対する占有管理を始めた当時は婚姻取消事由の存在を知らずその後にこれを知った等、原判決認定の事情のある本件においては、相続人は、少なくとも三分の一の共有持分に関する限度では表見相続人にあたる。

被上告人Y1の上告人に対する本件不動産明渡請求は、右三分の一の相続持分も有しないことを前提とするものであり(共有物を共有者の一人が占有している場合に、他の共有者はその明渡請求をなしえないことにつき、前掲昭和四一年五月一九日最判)、その限度で相続回復請求にあたるというべきである。したがって、亡A死亡後二〇年目である平成二年五月一五日の経過をもってこの明渡を求める請求権は時効消滅し、かつ、そのいわば反射的な効果として、上告人は、本件不動産について、この三分の一の持分権を取得したというべきである。

3 原判決には、右消滅時効を否定し、被上告人Y1から上告人に対する本件不動産の明渡請求を認め、かつ、上告人の本件不動産の所有権取得を共有持分の限度においても認めなかった点において、判決に影響を及ぼす法令の違背があると言うべきである。

二 相続回復請求権の相手方たる表見相続人の意味について

1 原判決は、相続回復請求権の適用範囲について論じた最大判昭和五三年一二月二〇日民集三二巻九号一六七四頁に依拠しているものと思われる。確かに右最高裁判決は、相続回復請求権の相手方たる表見相続人の意味について、「自ら相続人でないことを知りながら相続人であると称し、又はその者に相続権があると信ぜられるべき合理的な事由があるわけではないにもかかわらず自ら相続人であると称し、相続財産を占有管理することによりこれを侵害している者は、本来、相続回復請求制度が対象として考えている者にはあたらないものと解するのが、相続の回復を目的とする制度の本旨に照らし、相当というべきである。」として、表見相続人の範囲を限定し、相続財産への侵害の排除を求める請求が相続回復請求として消滅時効にかかる場合を限定している。

しかし、この判決は、この善意等の判断の基準時という問題を明確には解決していない(岨野悌介・昭和五三年度最高裁判所判例解説五八六頁)。原判決で認定された事実における上告人のように、本件不動産の占有開始当時は婚姻取消事由の存在を知らなかったがその後これを知ったという場合が「善意」と言えるのか。この点は、右大法廷判決からは、少なくとも右引用部分からは当然には明らかにならないのである。

2 上告人は、善意等の判断時期は侵害行為開始時となると考える。相続財産に対して客観的には侵害にあたる行為をしている者であっても、その侵害行為開始時に自己の相続人であるということを信じ、しかもそう信じたことにつき合理的な事由があるという者は、「自己の侵害行為を正当行為であるかのように糊塗するための口実として名を相続に借りているものまたはこれと同視されるべきもの」とか、「一般の物権侵害者ないし不法行為者」(右大法廷判決)とか言うにはあたらないからである。そのような者がその財産相続権の不存在を知ったとしても、それだけでは「当該相続財産についての相続権が自己以外の者、すなわち結局のところ真正相続人に属することを承認している」(右判決における高辻、服部裁判官の補足意見)とは言い難いことにもなるであろう。また、相続回復請求権の消滅時効制度が依って立つところは、当事者や第三者の権利義務関係に混乱を生じさせないために外見上相続により相続財産を取得したような事実状態の解決は早期になされる必要があるからとされている(右大法廷判決)。とすると、右のように「合理的事由」が存在しそれに基づいて占有等も始まったという場合にこそ、その除去を早期にしなければ当事者等の権利義務関係に混乱が生じるのであるから、右時効制度により問題の早期解決が図られることが必要なはずである。

このような視点からであろう、右大法廷判決の調査官も、右善意等の事由が具備すべき時期の問題については、今後検討が必要な課題であるとしながらも、相続権侵害の始めに具備すればよいということになろうかとの意見を述べている(岨野・前掲書五八六頁)。

3 善意等の基準時を侵害開始時とすることは、その後の判例も前提としていると言える。

すなわち、右大法廷判決以後これを引用して、被侵害者の妨害排除請求等を相続回復請求権であることを否定した判決は、いずれも侵害開始時に悪意が認定できる場合である。多く見られるケースは侵害者たる共同相続人の一人が遺産分割協議書における他の共同相続人作成部分を偽造した場合であり(右昭和五三年最大判ほか、最判昭和五四年四月一七日判時九二九号六七頁のうちの①及び③。下級審では、東京高判昭和五六年四月六日判タ四四六号一〇四頁、福岡地判昭和五八年六月二八日判タ五〇八号一八九頁)、当然侵害開始時にの悪意が肯定される例である。また、侵害者たる共同相続人の一人は所在は不明であるものの他の共同相続人がいることを知っていた場合(最判昭和五四年四月一七日判時九二九号六七頁のうち②)、被相続人の子供として戸籍上記載されていた侵害者が子供のころから実親のもとで育てられ被相続人の子供ではないことを理解していた場合(福岡高判昭和五六年六月三〇日判タ四五五号一一六頁)なども、いずれも侵害行為開始のかなり以前から他の相続人の存在(いわゆる表見共同相続人の場合)あるいは自己の相続権の不存在(表見相続人の場合)を知っていたという事案である。

他方、相続回復請求権であると認められる可能性があるとされた事案として、被侵害者である共同相続人の相続権譲渡の書類が何者かによって偽造されそれによって侵害者である別の共同相続人に単独所有の登記がなされたという事案がある(最判昭和五四年四月一七日判時九二九号六七頁のうち④)。この判例は、「被上告人(侵害者)において、上告人(被侵害者)の持分権譲渡の趣旨を記載した前記書面が上告人の意思に基づいて作成されたものと信じていたものであり、かつ、そのように信じていたことが客観的にも無理からぬとされるような事情があるなど、上告人の持分権が被上告人に帰属したものと信ぜられるべき合理的な事由が備わっていたものであることが、さらに認められる場合には、上告人の本訴請求について民法八八四条の適用があることとなる」として、この点のさらなる審理を求めて破棄差戻の判決をしている。この判決は、単独登記をする際に使われた被侵害者の持分権譲渡の書類が偽造ではないということを侵害者は信じていたか、またその書類はそう信じるに足りるものだったかという点をさらに審理せよとの趣旨と読めるものであり、その後の事情等についての審理を求めているとは解されないのであって、善意等の基準時は侵害開始時と理解できるのである。

三 本件について

1 原判決が認定するとおり、上告人は、少なくとも本件不動産の占有管理を始めた当時は、自分と亡Aとの婚姻が重婚であったということを知らず、自己が亡Aの妻であり三分の一の相続持分を有する相続人であることについて何ら疑いを抱くことなく、信じていた。

そして、そのように信じるについて、極めて合理的な事由が存在していた。亡Aの戸籍には前婚の事実が記載されておらず、上告人と亡Aとの婚姻は適法に受理され、その婚姻の事実が戸籍に記載され、抹消などもされることなくその記載が続いていたからである。したがって上告人との婚姻が有効であることは単に上告人のみ認識ではなかったのである。例えば、昭和四六年一月二三日の話し合いのときにも婚姻の瑕疵の話は述べられておらず、出席者である真正相続人らは皆、上告人も真正相続人であると信じていたのである。

2 上告人が表見相続人にあたるということを、本件での具体的な事情に基づいてさらに若干説明する。

(一) まず、本件の場合、上告人と亡Aとの婚姻は無効だったのではなく、取消事由が存していただけであり、その状態のまま取消がなされずに亡Aの死去後二〇年が経過し、それから婚姻の取消がなされている。相続の基礎となる身分関係や遺産分割協議・相続放棄などが無効あるいは不存在であった前掲のいくつかの判例とは、事案を異にする。

婚姻の取消は、取消訴訟あるいは合意に相当する審判(家事審判法第二三条)によって初めて形成的になされるものであり、例えば上告人に対して本件不動産の明渡を求める訴訟において主張されても認められない。亡Aの死後二〇年間、上告人は被上告人らから本件不動産の明渡を求められても婚姻関係の存在を理由にこれを拒絶できる地位にあったのである。その後の婚姻取消には一定限度で遡及効が認められてはいるが(民法第七四八条第二項以下)、民法第八八四条が定める消滅時効の期間中、自分も共同相続人の一人であるとして本件不動産の明渡を拒否することができたことになる上告人がこれについて「一般の物権侵害者ないし不法行為者」(前掲大法廷判決)と同視されるべき者と言えるかというと、はなはだ疑問に思われる。

(二) もう一つは、被上告人Y1についてである。原判決によると、被上告人Y1は、昭和四六年一月二三日から数カ月を経ないうちに、依頼した弁護士の調査により上告人の重婚の事実を知りながら、これを二〇年以上も放置し、本件不動産の明渡はおろか、婚姻の取消も求めなかったというのである。権利の上に眠る者は保護するに値しないという時効制度の存在趣旨からすれば、このような場合にこそ相続回復請求権の消滅時効を認めてしかるべきと思われる。

四 まとめ

以上のとおり、本件の場合、前掲の大法廷判決の論理を前提にしても、上告人については、その妻としての相続持分の限度において被上告人Y1からの請求は相続回復請求権の行使にあたるというべきであり、したがってこの請求は亡Aの死後二〇年の経過によってなしえなくなっているというべきである。そして、そのいわば反射として、上告人は本件不動産につき三分の一の共有持分権を取得したことになっているというべきである。

第四 法例(平成元年改正前のもの)等の解釈適用の誤り

一 総論

1 原判決は、本件相続の準拠法は旧法例(平成元年改正前のもの。以下同じ)第二五条により旧韓国民法(一九七九年改正前のもの。以下同じ)となり、その結果、同民法第七七四条によって被上告人Y1は亡Cの子とされるとして、右被上告人に亡Cからの相続を認めている。

2 しかし、右には、相続の先決問題である親子関係の有無についても旧法例第二五条が定める被相続人の本国法が準拠法となるとして、旧韓国民法を適用した点に、旧法例の右規定の解釈に誤りがある。

あるいは、仮に旧韓国民法を適用すべきだったとしても、同法第七七四条によって被上告人Y1が亡Cの子とされ相続人とされるとした点において、旧韓国民法の解釈に誤りがある。

3 そして、この解釈の誤りは、判決の結果に影響を及ぼすことが明らかである。後に述べるような旧法例あるいは旧韓国民法の本来の解釈によれば、被上告人Y1は亡Cの子ではなくしたがって相続人ではないというべきであって、被上告人Y1が有する亡Aの相続持分は一二分の一に止まる結果、仮に上告人が収受していた本件建物の家賃が不当利得に当たるとしても、そのうち右被上告人が返還を求め得る額は、原判決の言うような四六八分の五二ではなく一二分の一に止まるからである。

二 いわゆる先決問題について

1 旧法例第二五条の適用範囲

旧法例第二五条は、「相続ハ被相続人ノ本国法ニ依ル」と定めてる。ここに「相続」とは、原判決(第一審判決を引用)も述べるとおり、相続人の範囲及び順位、相続分などである。したがって、子や配偶者が相続人となるか、その相続持分はどれほどかということは、同条により準拠法とされる被相続人の本国法により定められる。

しかし、ある者がその被相続人の子であるかとか配偶者であるかという問題は「相続」の問題ではない。子に関しては言えば、例えば、養子縁組を認めるのか、親子関係確認にはどのような手続を踏むのか、実子に対しての勘当を認めるか、精液バンクや代理出産の場合にはだれを父とし母と認めるのか、といった問題が相続とは全く別の問題である。したがって、これらについての準拠法は、相続が問題になっている場面でも旧法例第二五条によって定まるものではない。

2 先決問題

これは国際私法の講学上、先決問題と呼ばれる問題である。相続に対しての親子関係の存否の問題は、先決問題の典型的なものであり、以下のとおり、しばしば例にも挙げられる。

「相続人たるべきものが、はたして被相続人の妻であり、嫡出子であり、養子であるか否かという問題は、それぞれ婚姻、嫡出親子関係、養子縁組などの成立に関するそれ―いわゆる先決問題―であって、おのずからそれぞれ別個の準拠法をもつべきこととなるであろう」「これらの点は……わが通説の認めるところ」(折茂豊「国際私法各論(新版)」〔有斐閣法律学全集〕四二六・四二八頁)

「例えば相続は被相続人の本国法によるべきものとする場合、いかなる者が相続権を有するかは被相続人の本国法によって定まるのはもちろんである。いま被相続人の本国法によれば被相続人の配偶者や養子が相続権を有するとされる場合、ある者が配偶者や養子たる身分を有するか否か、すなわち婚姻や養子縁組が有効に成立しているか否かという問題は、それ自身、相続とは別個の渉外法律関係として、いかなる方によって判断すべきかという問題となる。これが、ここにいわゆる先決問題にほかならない。これに対して、いかなる者が相続人であるかの問題すなわち相続の問題を本問題という。」(山田鐐一「国際私法」〔有斐閣〕一四四頁)「相続人が相続人たりうるための前提をなす被相続人との間の婚姻関係、親子関係、親族関係の存否は、いわゆる先決問題として別個の準拠法の支配を受けるのはもちろんである。(同書四八一頁)

「国際私法上問題となっている法律関係に先立つ法律関係があり、その先の法律関係が有効に成立していなければ、後の法律関係が成立しない場合がある。例えば、養子縁組が有効に成立していなければ、養子の相続の法律関係は成立しない。また、婚姻が有効に成立していなければ、養子の相続の法律関係は成立しない。……このような場合、相続ないし婚姻の効力の問題を本問題といい、養子縁組ないし婚姻の成立の法律関係の問題を先決問題という」(溜池良夫「国際私法講義」〔有斐閣〕二一九頁)

判例にも、相続に関してこのような先決問題を意識したものとして、東京地判昭和四八年四月二六日判時七二一号六六頁、及び東京高判昭和五四年七月三日判時九三九号三七頁があげられる。後述のとおり、この二つの判例は結論を異にしている。

3 先決問題の処理

(一) 先決問題については、その先決問題自体について法廷地の国際私法(すなわち、日本の法例)の指定する準拠法によるべきであるとする、法廷地法説(あるいは法廷地国際私法説)が妥当である。渉外的な私法問題の解決は生活関係を多くの単位に分割してそれぞれについて準拠法を指定するという思考方法によってなされるものであることからすると、このような先決問題についても本問題とは独立に、日本の国際私法によって準拠法が定められるべきだからである。また、法廷地の国際私法に従って考えなければ、同じ法廷地での判断のうち、例えば扶養に関しては親子と判断されながら相続に関しては親子と判断されないといった、不当な結果を生じかねない。この見解が通説として支持され(溜池・前掲箇所、折茂・前掲書四二八頁など)、また判例にもこれによるものがある(前掲昭和四八年東京地判)のも、右のような点からこの見解が妥当なものとされるからにほかならない。

このほかに比較的有力に主張される見解として、本問題の準拠法所属国の国際私法の指定する準拠法によるべきとする、いわゆる準拠法説(あるいは準拠法所属国国際私法説)がある。この説には、同一の問題に対する解決処理が国際的に調和するという長所があり、これによった判例もみられる(前掲昭和五四年東京高判のほか、東京控判明治四三年一二月二六日法律新聞七〇〇号一二七頁もその趣旨か)。しかし、逆にある問題に関する国内での判断が場面ごとに区々になるという欠点があるほか、先決問題のさらに先決問題といった場合の準拠法の決定が極めて複雑となること、多くの場合先決問題として判断される事柄に関する我が国の国際私法の条文が空文化することなどの問題があり(溜池・前掲書二二一頁)、少なくとも一般的に妥当する説とは言い難い。

(二) なお、原判決は、そもそも先決問題についての問題意識を有していないと思われるが、あえてこの問題の議論になぞらえれば、先決問題についても本問題の準拠法によるべきという本問題準拠法説に立っているとも言える。この見解は、本問題の準拠法国の実質法における例えば「子」とはその実質法において「子」と認められる者のことであるから、本問題と先決問題の準拠法は一致させるべきということを拠り所とする。

しかし、このような解釈は論理必然ではなく、妥当でもない。例えば韓国民法にある「子」という語を韓国民法と全く同義に解釈しなければならない必然はないし、また、仮に韓国での解釈と同様にすべきというのであるのなら、それは、韓国の民法における「子」に限らず、広く韓国の国際私法によって指定された準拠法によって「子」と認められる者のことになるはずだからである(溜池・前掲書二二一頁)。このような欠陥ゆえであろう、この説に対する支持は現在ではほとんどなく、概説書の中にはこれを独立の見解としてとりあげないものも多い(山田・前掲書一四五頁、池原季雄「国際私法総論」〔有斐閣〕二七九頁)。また、この説によった判例も見当たらない。

4 本件について

したがって、本件では、被上告人Y1が亡Cの子とされるか否かについての準拠法は、相続についての旧法例第二五条によってではなく、旧法例の全く別途の規定によって定められるべきである。この点において、原判決には法令の違背がある。

三 旧法例における法性決定

1 一般論

(一) 韓国人が関係する渉外的私法関係において旧韓国民法第七七四条を適用して嫡母庶子関係を認めるか否かについては、旧法例のどの規定が定める準拠法によるべきか。これについては従来論じられたことがなく、また判例も見当たらない。

この問題は、親族についての問題でありながら旧法例第一三条ないし第二一条までのいずれにも該当しないものとして、同第二二条の定める準拠法によって定められるべきである。このような嫡母庶子関係は「家」の観念と結び付いた、実親子関係とも養親子関係とも異なる、特殊な親子関係であり、旧韓国民法の時代においても既に諸外国に例もみなかったものであって、旧法例中のいずれの規定もこれを予定していないというべだからである。他方、旧第二二条は、親族関係に関しては旧韓国民法のこの嫡母庶子関係のような特殊な制度が、各国の歴史的・宗教的・民族的背景のもと存在しうることから置かれた規定というべきだからである。

(二) 旧法例の第一三条ないし第二一条で、この問題の準拠法を定めているとも思われる規定をあえて探せば、嫡出関係の存否についての準拠法を定める第一七条であろうか。旧韓国民法第七七四条は、「出生子と同一なるものとみなす」と定める規定であり、実親子関係の範囲を定めるものとも解釈できないわけではないからである。しかし、実親子とはあくまで生物学上の親子関係についてのことであり、生物学上の親子でない者について親子関係を認める嫡母庶子関係の規定の適用の有無を旧法例の右規定が定めているとは考えられない。のみならず、右規定は主として父親と子との関係についての準拠法を定める規定であり、指定される準拠法も出生当時の母の夫の本国法である。本妻と庶子との関係についての準拠法の問題を予定しているとは到底考えられないうえ、庶子については通常出生当時母の夫がいないわけであるから、準拠法を定められないという不都合が生じる。

あるいは法定親子関係であるという点において共通であると考えて旧法例第一九条第一項によるという考え方もありうるであろう(おそらく旧第二二条によった場合と結論は同じになる)。しかし、同じ法定親子関係とは言え、双方の合意により成立するものと、「家」の観念のもと出生の事実に基づいて当然に発生されるものとの間には顕著な差があり、後者はやはり旧法例第一九条第一項の予定しないものというべきであるから、同条項によることは妥当でない。

2 本件について

旧法例第二二条は累積適用の規定であって、亡Cと被上告人Y1との間に嫡母庶子関係が認められるか否かは、亡Cと被上告人Y1のそれぞれの本国法によって定められることとなる。そうすると、少なくとも被上告人Y1の本国法である日本法はこのような嫡母庶子関係を親子関係として扱わないから、両者間には親子関係は認められないことになる(亡Cの本国法によってこれが認められるか否かは第五項に述べる)。

四 韓国渉外私法における法性決定

なお、先決問題に関し、前述の準拠法説(あるいは準拠法所属国国際私法説)によった場合(あるいは原則として法廷地国際私法説によるが例外的に準拠法所属国の国際私法によるとする折衷説により、この場合にはその例外にあたるとした場合)、この旧韓国民法における嫡母庶子関係の適用の有無は、韓国の国際私法のどの規定によって定められるかが問題となる。

しかし、韓国の国際私法である渉外私法の親族についての規定は日本の旧法例とほぼ同様の内容のものとして定められており、その解釈は旧法例と同様と考えられるから、嫡母庶子関係が認められるか否かは、日本の旧法例第二二条に相当する渉外私法第二四条の規定により定められる準拠法の定めるところによるべきである。これも累積的規定であって、亡Cの本国法である旧韓国民法と被上告人Y1の本国法である日本民法のうち、少なくとも後者が嫡母庶子関係を認めない以上、両者の間に親子関係は認められないと言うべきである。

五 旧韓国民法第七七四条の解釈について

ところで、仮に原判決のように旧法例第二五条の定めるところにより旧韓国民法によって亡Cと被上告人Y1の親子関係の有無が判断されるべきとしても、旧韓国民法はこの両者に本当に嫡母庶子関係が認めるのか、いささか疑問と言わなければならない。両者は同じ家の戸籍の中にある者ではないからである。旧韓国民法第七七四条の規定は、「家」の概念に基づくものであり、同じ「家」の戸籍の中にある嫡母と庶子との間に親族関係を認めるものであり、同じ「家」にない場合にまで嫡母と庶子の間に親子関係を認めるものではないのである。例えば夫死亡後妻が親家に復籍したり再婚したりすると嫡母庶子関係は消滅するとされている(旧韓国民法第七七五条第二項)。

ちなみに、この旧韓国民法第七七四条の規定は、我が国の旧民法第四編(昭和二二年法第二二二号による全改前のもの)第七二八条と全く同趣旨の規定であった。というよりも、旧韓国民法の右規定は旧日本民法の右規定を受けて作られた。そして、この旧日本民法の規定でも、嫡母庶子関係が生じるのは両者が家を同じくする場合に限ると解釈されており、例えば入夫の実家にある庶子と入夫の妻との間には嫡母庶子関係は生じないと解釈されていたのである(大正二年二月二六日民事第八九号回答)。旧韓国民法の解釈においてもこの点は参考になるであろう。

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